文部省では不登校児童生徒を「何らかの 心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、 登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間 30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を 除いたもの」と定義して調査を行っています。
平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について:文部科学省
この調査は毎年実施されており、統計もとられているのですが、不登校児童生徒の数、不登校児童生徒の割合共に年々増加傾向にあり、学校教育の大きな問題としてとらえられています。
それは社会全体の価値観の多様化、家庭環境の複雑化など、個人レベルでは解決できないような問題も内包しているように思えます。
そのような社会情勢の中、自分の子どもが突然「学校に行きたくない」と言い出してしまう可能性は大いにあり得ます。
そんな時、頭に浮かぶのが「教育の義務」という言葉。義務だから子どもは学校に行かなければならない?子どもを学校に行かせないと罰せられてしまう?そんな不安がよぎります。
ここでは教育の義務の法的な部分の情報をまとめてみましたので、参考にして下さい。
「教育の義務」は「親が子に教育を受けさせる義務」
義務教育を語るために、まず改めて、国民の3大義務をおさらいしておきましょう。
第26条 2項
すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。⇒教育の義務
第27条
すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。⇒勤労の義務
第30条
国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
条文をしっかりと読めば分かりますが、「勤労」「納税」は国民が直接義務を負うものですが、「教育」の義務については「その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う」とあり、子どもの親が負っている義務となっています。
つまり、小学生の不登校の子は教育を受ける義務はないという事になります。
だから小学校に通わない不登校の子に向かって、お前は義務教育を違反してるなんて言ってしまうのは大変恥ずかしい事ですので、絶対に言わないようにしましょう。
不登校の親は法律違反となってしまうのか?
では不登校の親どうなのか?学校教育法、学校教育法施行令では下記のように定められています。
学校教育法第17条(就学義務)
保護者は、この満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満12歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。2 保護者は、子が小学校又は特別支援学校の小学部の課程を終了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満15歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを中学校、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。
3 前2項の義務の履行の催促その他これらの義務の履行に関し必要な事項は、政令で定める。
学校教育法施行令第20条
小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校及び特別支援学校の校長は、当該学校に在学する学齢児童又は学齢生徒が、休業日を除き引き続き七日間出席せず、その他その出席状況が良好でない場合において、その出席させないことについて保護者に正当な事由がないと認められるときは、速やかに、その旨を当該学齢児童又は学齢生徒の住所の存する市町村の教育委員会に通知しなければならない。学校教育法施行令第21条(教育委員会の行う出席の督促等)
市町村教育委員会の教育委員会は、前条の通知を受けたときその他当該市町村に住所を有する学齢児童又は学齢生徒の保護者が法(学校教育法のこと)第17条第1項又は第2項に規定する義務を怠っていると認められるときは、その保護者に対して、当該学齢児童又は学齢生徒の出席を督促しなければならない。
これを簡単に説明すると、小・中学校(に準ずる学校含む)の校長・教育委員会は出席しない生徒に対して正当な事由がない場合には、学校に通わせるように親に対して督促を送るという法律になっています。当然この督促に対して親が履行しなかったた場合には罰金の規定も定められています。
つまり、正当な理由がないと学校・教育委員会が判断し督促が出され、かつ親が何もしなかった場合には法律違反となり、罰則を受ける事となると言えそうです。
督促の発布要件の正当な理由とは?
ではこの正当な理由とは何なのか。これは本当に個別具体的な話となってしまうため、一概に判断する事は難しいかと思いますが、一つヒントとして文部科学省HPの資料で「資料3‐2 現行の就学義務履行の督促の仕組み:文部科学省」があります。
これは上記の就学義務履行の制度を分かりやすく図式化したものです。
さらに第191回国会(臨時会)質問第九号(質問者:山本太郎)で
十一 不登校児童生徒の親の教育義務について
2(略)
子どもの意思に反して無理矢理登校させる、させない等の虐待や子どもへの人権侵害等を除き、不登校児童生徒に対して親や保護者が、子どもの意思と学習権を尊重して、教育権の行使として家庭教育を行う状態は、学校教育法施行令第二十条で規定する「正当な事由」となると考えてよいか。
という質問に対して、国(答弁者:安部晋三)は
十一の2について
(略)学校教育法施行令(昭和二十八年政令第三百四十号)第二十条に規定する正当な事由については、個別の事案に応じて判断されるものであるが、文部科学省が実施している「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」においては、不登校について、「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にあること(ただし、病気や経済的な理由によるものを除く。)をいう。なお、欠席状態が長期に継続している理由が、学校生活上の影響、あそび・非行、無気力、不安など情緒的混乱、意図的な拒否及びこれらの複合であるものとする。」と定義しており、一般論として申し上げれば、そのような不登校に該当する場合については、同条に規定する正当な事由に該当するものと認識している。ただし、保護者が単にその保護する子に対する教育上の方針に基づき児童生徒を就学させない場合については、同条に規定する正当な事由には該当しないものと認識している。
なんとも小難しいですが、本人が不登校を望んでいる場合で、学校生活上の影響(いじめや先生とのトラブル等)あそびや非行、無気力、不安など情緒的混乱、意図的な拒否などが原因で不登校になっている子は正当な事由があるとみられるとのこと。
ただし、答弁内でも「個別の事案に応じて判断されるもの」とありますし、「単にその保護する子に対する教育上の方針に基づき児童生徒を就学させない場合」は正当な事由ではないとの事ですので、安易に大丈夫と考えるはやめた方が良さそうです。
過去には親が逮捕されたケースも
「ネットアイドル」として芸能活動をしている中学3年の女子生徒(15)を通学させなかったとして、大阪府警黒山署は18日、学校教育法(就学させる義務)違反の疑いで、母親(44)=東京都町田市=を書類送検した。
産経WEST
このケースでは過去6回にも及ぶ督促を無視し、学校側が訪問をしても居留守を使ったり、電話をしても拒否し続けた結果、警察や学校が動き、書類送検となったそうです。
不登校が正当な事由か学校が判断をしなければならない立場にも関わらず、母親が学校側の相談を無視をし続けてしまったという事に落ち度があったように思います。
正当な事由に該当するかどうかは通っている学校、あるいはお住いの市区町村の教育委員会とよく相談した上で判断するようにした方がよさそうですね。
まとめ
以上より不登校の子の親は就学義務違反なのかの私なりの結論は
- 不登校の子の親は正当な事由があれば就学義務違反とはならない
- 「学校生活上の影響、あそび・非行、無気力、不安など情緒的混乱、意図的な拒否及びこれらの複合」が不登校の原因である場合には一般的には正当な事由となる。
- ただし、正当な事由は個別に判断されるものであるため、学校や教育委員会とは情報共有し違反とならないよう指導は受けた方が良い。
です。備忘録も兼ねて。